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ドイツ視察ツアー報告レポート

『ドイツ視察ツアー』を終えて

セルフエナジーハウス研究会

Writings&Photo:Koichi Arima

私は、十数年前に米国や欧州の住宅に関係する視察ツアーを企画し、何回か実施した経験がある。

当時は輸入住宅がトレンドで、住宅関係者はこぞって米国やヨーロッパに視察に出かけていた。興味本位、物見遊山のツアーも少なくなかったようだが、企画者の私としては、わざわざお金を使って視察に出かけるのだから、実のある内容にしようと必死で考えていた。シアトルでは住宅のマーケティングをテーマにし、全米ホームビルダーショーでは毎年、日本語のセミナーを会場で開催した。パリの世界最大の展示会では日本語の案内ブースを設置し、南仏の住宅展示場を案内した。

しかし、何を見せても、どんな説明をしても参加者の多くは企画の意図を理解せず、やれ納まりが雑だとか、資材の価格が安いからどうしたら買えるかが興味の中心で。私が伝えたい、理解してもらいたいと考えていた内容が伝わらず失望する事がほとんどだった。

ここ数年は海外視察ツアーには二度としたくないと思って、ごく限られた人達を案内するか、自身の取材だけをしていた。その後、住宅業界の興味は、エネルギーや省エネに移っていった。セルフエナジーハウス研究会でも、その研究の主題はそこにある。設立以来開催している、セミナーや勉強会では従来の住宅建築の領域とはかなり違うエネルギーや熱の話を如何にわかりやすく説明し、理解してもらう事を大きなテーマとして講演している。

しかし、常に「どこまで理解してもらえているのだろうか?」「私の説明で良いのだろうか?」との思いが付き纏う。代表の上野氏も同じ事を感じていたようだ。

「いくら説明しても、実際に目の当たりに見ないとなかなか理解出来ないもので、私自身もそうでした。やはり百聞は一見にしかずという事ですね。現地を見ることは重要だと思います。」との提案でドイツ視察ツアーの企画をスタートさせることにした。

震災以後、エネルギーに対する人々の意識は大きく変わった。ドイツのパッシブハウスや欧米のゼロエネルギー住宅などの高度な省エネルギー住宅や、太陽光発電・風力発電など自然エネルギーに関するセミナーや講演会も盛んに行われるようになり、さまざまな組織が生まれている。私達の研究会もその1つで、おかげさまで参加者の数も増えてきている。

しかし、壁の厚さはどのくらいが妥当か、熱損失係数はどこまで達成出来たか、この機器の性能や効率はどの程度か、といった細かい部分に焦点が当てられている感がある。確かに、技術者やプロとしては性能や数値は自らの技術の高さをアピールする為には重要なのだろうが、まるでアスリートがそのタイムを競い合っているように感じるのは、私だけなのだろうか?住宅建築はオリンピックや競技ではない。暮らしや生き方という、もっと本質的な所に焦点を当てるべきではないのだろうか。

手前味噌で恐縮だが、研究会はそのような事を基本方針として活動を行っている。当然、今回の視察ツアーもこの考えを基本に企画した。

日本では原発の再稼動を認めるか、認めないか、電力は足りるか、足りないか、とどのつまりは経済と安全のどちらを優先するのか、不毛な論争が続き人々は右往左往しているという、何とも情けない有様である。国のエネルギー政策の向かうべき方向を定め、それに向かって国民の意識変革や技術開発を着実に進めているドイツとは、まるで先進国と発展途上国ほどの差があると思える。

いや、発展途上国の方が先進国を見ながら、自国の行く末を考えた行動を行っている。蟻とキリギリスの話ではないが、まさに日本はキリギリスそのものといえる。今回、訪問先のドイツにもけっして問題点が無いわけではない。太陽光発電の電力買い上げ価格が経年ごとに低下していく事で、安価な中国製の製品が氾濫し、国内のメーカーが倒産して行く事や、バイオマスエネルギーの利用が拡大される事で、トウモロコシの作付けが広がり小麦を輸入する事態になったなど、数々の問題を抱えている。

しかし、確実にエネルギーの自立化を進め、その技術や機器類はEUを始めとする国外に販売して経済を成長させていくという、国家的な戦略を確実に実行している。国益とは、このような事を言うのではないかと私は考える。

ドイツでも、第一次オイルショックの後、建物の断熱化が必要だと無作為に断熱材を放り込み、壁のカビで大きな社会問題となった。木質繊維断熱材や調湿機能を持った気密シートは、これらの経験から研究・開発されたものだ。今回訪問した、「HOMATHERM」(ホーマテルム)社は自然素材で調湿機能の高い木質繊維断熱材を開発し、長年の苦労の末に、年々売り上げを伸ばし、フランスに第二工場を稼動させ、東欧圏にも工場を建設する計画を持っている。

同じく、調湿機能を持った気密シートを開発した、プロクリマーは消費者団体の覆面試験で最高の性能を認められた。太陽光発電やソーラーパネルを使ったカーテンウォールや断熱窓、家庭用太陽熱パネル等を生産して、2000億を売り上げるという「SCHÜCO」(シュコ)社は太陽熱集熱パネルのフォルクスワーゲンを目指し、コストパフォーマンスに優れた製品を世界30ヶ国に輸出している。

ユーンデ村は、必要なエネルギー(電気・熱)を再生可能で、しかも二酸化炭素を排出しないバイオマスエネルギーで全て供給しているドイツ最初のバイオエネルギー村である。牧畜と農業だけの貧しい村は、いまや世界的に有名になり、世界各国から3000人以上が視察に訪れ、エネルギー自給自足モデルの村としてだけではなく、新たな地域活性化のモデルともなっている。

30年も前に建てられたモデルハウスも少なくない大規模な住宅展示場では、スクラップ&ビルトを繰り返す日本の住宅とは違う、資産としての家はどうあるべきかを教えてくれる。どれをとっても、絶え間ぬ努力の末の成果で、ドイツは、けっして一夜で環境やエネルギー先進国に成り得たわけではない。

日本は同じ敗戦国でありながら、特技と言われる良い所取りの技術や模倣でドイツよりも早く今日の経済大国に成り上がったが、その特技は今や中国に奪われ、後塵を拝している。ドイツは東西分裂の時代を乗り越え現在を築いて来た。良いとこ取りの対処療法は、これからの時代には通用しない、日本がイースター島にならない為には、しっかりと向かう方向を見つめ、これからの生活や生き方を考える事が肝要である。

エネルギー自立を目指す家作りとはまさにこの事なのである。それを実現させるために、先進と言われるその技術や開発の背景にある考え方や思想を学ぶ事が如何に大切な事か。果たして、今回の視察ツアーでこの意図や思いが参加者に伝わったかは定かで無いが、参加者の皆さんのレポートから、それを伺う事が出来て企画者としてはうれしい限りである。

最後に、会社訪問をコーディネイトして頂いたドイツのECOS社、3時間かけてゲッティンゲンまで来てくれたベテラン通訳の岸さん、ドイツの住宅事情を展示場で一緒に回りながら説明し、調湿機能を持った気密シートの重要性を判り易く説明してくれたMr.バウマン氏、そして丁重に迎えていただいたホーマテルム社とシュコ社のスタッフの人達に深くお礼を申し上げたい。さらに、二転三転したスケジュールや注文の多いツアーの手配をして頂いた、旅くらぶ21の池田社長の労に感謝を述べたい。

なお、研究会では今秋、ECOS社との協力でドイツ政府の「エネルギー高効率建築 訪独視察団」への参加ツアーを計画している。日々進化し続けるドイツの最新技術を通して私達が学ぶ事は数限りなくある。多くの方に参加して頂きたいのだが、残念ながらドイツ政府からの受け入れ人数が限られているので、参加を考えている方は早めにお申し込みいただいた方が良いだろう。

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